「お兄さん、お兄さん」ある日の朝、駅へと向かう途中の道を歩いていると、背後からそんな声が聞こえた。「あなたのことですよ、お兄さん」俺の前に異彩を放つ小柄な少女が現れた。初夏を迎えて気温も高いのに、黒を基調とした服にすっぽりと身を包み、フードを目深に被っている。「退屈、しているんじゃないかと思いまして」訝しむ俺に、少女は驚きの光景を見せる。駅へと向かう人たちが、ピタリと動きを止めていたのだ。ただ立ち止まっているわけではない。皆一様に、歩いている途中の状態で固まっている。――まるで時間が止まってしまったかのよ ...